2012年のMRP(Most Respectable Person;最も尊敬する人)は脳内満場一致で坂口恭平氏であったが、翌2013年はゲームを通じて知り合ったM氏が受賞した。
彼は自分と同世代の典型的なゲーマーでアニメヲタク。当時フリーターで公務員試験にも失敗し、就職活動に励んでいる最中であり、何かと自分と共通点が多かった。女っ気がないのも似ていた。
そんな彼が、自分が就職して1年後の、2013年4月に同じく就職を決める。奇しくもお互い社畜となるわけだが、働き始めてからの両者の態度は正反対だった。
僕は不安定極まりなく、SNSで幾度となく弱音を吐き続けた。サブカルチャーに興味を持たなくなった。なけなしの休日をアニメの視聴に割くのは億劫だった。繁華街をぶらぶらするだけの休日。翌日に疲れを残さないよう早めに切り上げた。仕事でミスしたくない。預金通帳の少しずつ増えていく金額を見て、ニヤニヤするだけが楽しみだった。
だからこそ、彼も僕のようになるのでないかと思っていた。ところが、彼は少なくともSNSには自己破壊的な言葉は綴らなかったし、サブカルチャーには一層関心を深め、数か月に一度ゲームのオフ会を開くなど、就職後もこれまでとほとんど変わらないヲタ充ライフを満喫していた。むしろ就職前よりも精力的に見えた。自己実現性の高い生き方だと感心させられた。
前述の坂口氏は現実を放棄し、思考を張り巡らせもう一つの「現実」を創造したが、並大抵の行動力や感性がなければ真似できない。真似してはいけない。一方、僕は目の前にある現実に甘んじてしまった。敬意とは裏腹に遠く離れていった。しかしながら、M氏は現実と折り合いをつけながらも、「現実」を生み出そうとした。夜勤明けでオフ会を開いたり、オフ会終了後に夜勤に繰り出したりすることもあった。現実と「現実」との切り替えが上手であった。奇しくも当時の僕も夜勤が多かったが、夜勤前の日中は迫り来る現実に怯えながら、ベッドで目を瞑るしか術がなかった。
3年経った現在でも彼は同じ仕事を続けており、2つの現実と向き合いながら生活している。一方、僕は転職に成功し以前よりも自分の時間が持てるようになった。彼のように「現実」を生み出し、自己実現性の高い生き方をしたいと考えている。そう言えば、ここ数年彼に会っていない。「前向きに生きている姿」を土産に顔を出してみてもいいのかもしれない。